「豊かな宝の海を そのぎ母の森大作戦」(仮称)出版について

 私たちの住む町の役場の玄関先には「太陽と緑と水とさわやかな空気」、その文言が、大きな石碑に先人からのメッセージとして刻まれています。

 まちの緑の山から水が流れて海にそそぐ、大村湾の玄関口が彼杵川河口域です。

 そんな河口域は、60年前までは彼杵海水浴場として、その地域の子供たちや大人たちで賑わっていました。でも今は、海水浴場としての役目は終わり、ひっそりと海に突き出た美しい岬と百年近くの年令を重ねて、大きくなった緑の松の林が「風景の遺産」としてはっきりと残っています。

 私たちはこの場所からどうすれば「海と川の生き物たちが元気になれるのか」と考え続け、「海を育む森を育てる」運動を始めました。

 大村湾は山も森も海に近く、世界的にも珍しい閉鎖性海域です。だからこそ、環境の変化をまともに受ける、子供たちに伝えやすい、生きた「環境教育の野外教室」です。

 どうかこの絵本を東彼杵町をはじめ、大村市や時津町、大村湾を囲むたくさんの周辺自治体の教材として、次の世代の子供たちに、お母さんが伝えてほしいと考え企画しました。

 地域の無くなりかけた海水浴場はいろんなところにも点在しています。そして、地域の里山を見守り続けてきた参道もあなたの町にも残っています。あなたのまちの海をもう一度元気にどうかよろしくお願いします。

 アキラ君は、お父さんとお母さんと一緒にお散歩です。今日はお陽様がキラキラと輝き、そよ風がふく、いい天気です。ちょっと小高い丘までいくと、アキラ君の住む小さな町が一面にみわたせました。

「おい、アキラ」、いつもみんなで行っているあの岬が見えるだろう。あそこは山から川が流れて、海に水がたどり着く、そんなところなんだよ。あの大きな松林の下でよくお弁当を食べに行ったり、カヌーであそこから海に遊びに行っている、あの場所だよ。」

「うん、見えるよ。あんなに景色のいい所だったんだね、きれいだね。あの景色は。この丘の上から見ると、はっきりわかったよ。また、行こうよ。」

「そうそう、あの場所は、彼杵川に山の方から流れてきた水が、海に流れゆく玄関みたいなところ、海と川の水が一緒になる大事な場所なんだよ。」

「それ、河口って言うんでしょ?よく知ってるよ。学校で習ったよ、図書館の本にも載ってたよ。」

「河口の場所は、海の魚や川の魚、それに貝やウナギやタコやイカさんが一緒に暮らしている、不思議な場所なんだよ。」

「ほら、よくごらん。山の上から流れた水が川を通って、海へ流れていくのが、よーく見えるよ。キラキラ海が光っている、あんなところだったんだ。」

「アキラの住んでいる目の前の海は、大村湾、それを『琴の海』と言うんだよ。キラキラと波がやさしい光に揺れて、琴の曲が流れているような『宝の海』と昔から言われてきたんだよ。」

「お父さんも、おじいちゃんも、その前のずっと前のおじいちゃんもみんなあそこで遊んで、海を見て、大人になったんだよ。」

「お父さん、また、松の木の下でお弁当を食べて、海に遊びに行こうよ。」

「ああ、また行こう、あそこは大きな緑の松林と海に突き出ている岬。この町一番のすてきな場所だよ。また行こう。」

「そうそう、お父さんたちは、今、みんなの海『琴の海』を大事にしていこうと、みんなで集まって、何年も前からやっている事があるんだよ。」

「何をしてるの?」

「そうだね、アキラもわかるだろう。何年も前から夏になると、ドーンと大雨が降るだろう。それで、あの河口の生き物がいなくなってしまっている。みんなで川や海の生き物もまた戻ってきてほしいと活動しているんだよ。」

「どんなことしてるの?」

「それはね、ドーンと大雨が降ると、山の上の方から岩が転がってくるし、泥がどろどろ流れてきてお魚さんや貝やウナギが、大変苦しい目にあっているんだよ。」

「なんで?」

「それはね、真っ黒な泥が流れてくると魚やウナギの泳げる生き物は遠くまで逃げていけるけど、動けない、泳げない、アキラがいつも食べているアサリ貝や昔はたくさんいた大村湾のひおうぎ貝なんかは、今はみんな死んでしまって、いなくなっているんだよ。」

「そうだね、ぼくらだって、ゴロゴロ岩や、ドロドロ泥が流れてくると、もう息ができないで死んでしまうね。」

「ぼくらは歩いて、走って逃げられるかもしれない。でも、海の中のアサリ貝は動けないから死んでしまうね。」

「そう、海に生えている『海の中の森』海藻の生えた森もなくなってしまうね。そんな海辺と川辺の生き物にとっては、『海の中の森』はとっても大事なんだよ。」

「それで、お父さんたちは、泥や岩が少しでも流れてこないように、ドーンと雨が降ったとき、雨の水を大きなスポンジみたいに吸い込んで小さな自然のやさしいダムになる、どんぐりの苗を少しずつ植えていき、『やさしい森のダム』を作っていこうと始めてるんだよ。」

「アキラが大きくなった頃、小さなどんぐりの苗は大きくなって、雨が降っても雨水をスポンジみたいに溜めてくれる『やさしい森のお母さん』になってくれるよ。

「そのお母さんたちがみんなで『宝の海』、『琴の海』を大事な子供のようにきっと育ててくれる。」

「そう思って、去年から番神山の森から始めたんだ。少しずつ小さな集まりすぎた木を切って、どんぐりの苗意を植えて、大きくなってください。森に根をしっかり張ってください。そして、やさしい森のダムを作ってくださいと。」

「番神山から『やさしい彼杵の森大作戦』を始めたんだよ。春になれば、お父さんたちが木を切ったあとに子供たちがみんなでどんぐりの苗木を植えていくんだよ。」

「ぼくも行くよ。友達を誘って、一緒に行くよ。そう、春になるのが楽しみだね。」

「この丘の上から、森と川と海の、この町のすてきな景色が見えたけど、もうひとつ、アキラにも見せたい景色があるんだよ。それは、『森の中の石の道』だよ。またあとで、番神山の頂上までハイキングに出かけよう。」

「参道の頂上へ続く石の階段、それは遠い、何百年も前の私たちのおじいちゃんたちに、コツコツと石を積んで作ってもらった、『森の中のすてきな風景』だよ。そこも、アキラに見せようと思っているんだよ。」

「なぜ、昔の人は階段をコツコツと作ってきたの?」

「それはね、大人たちが集まりすぎた小さな木を切って、大きな木を育てたり、子供たちが、小さな木を集めてご飯を炊いたり、風呂をわかしたり、そして、大きな木を運んで、家を作ったり、そんなことがしやすいように石の階段の道を何百年も前に作ってくれて、ずっと使われてきたんだよ。」

「でも今は、木を燃やして、ご飯も風呂も炊かなくなったんだ。それに山の木は、家を作るのにもあまり使われなくなった。」

「それで、山を守るには、また、山の木を使って山を守っていかなければならないんだよ。」

「ずっと前の昔みたいに切った木をムダにしないで使ってあげたら、森もきっと喜んでくれる、そう考えて、ストーブやキャンプの薪として、使おうと決めて、何百年も昔の人の作ってくれた番神山の参道から山に入って木を切ることを始めたんだ。これが、『森は海のお母さん 彼杵の母の森大作戦』なんだ。」

「きっとわかるよ。登ってみれば、石の階段を一歩ずつしっかり見ながら、そして、山の上からアキラの住んでいる町と山と川と海の様子も登ってみれば、きっとわかるよ」

「遠い遠いおじいちゃんのまた、そのおじいちゃんがお父さんにそして、アキラに伝えたかった事がきっとわかるよ。」

「それと冬になれば始めるけど、お父さんたちがもう一つやっている大事なことは、アキラたち子供たちが、みんなでお父さんが集めた薪を子供たちで小さくナタで切って、燃えやすいようにして、「千綿の小さな図書館」で自分たちで火をおこして、ストーブの薪を燃やしてもらうように準備をしてる。」

「それ、僕たちもやってみたいな。」

「そうだよ。ストーブの周りでアキラの好きな本も読んでほしい。」

「そう、使わなくなった森の木も、大事に使ってやると、きっと赤い炎の光で、みんなにメッセージを伝えてくれるよ。」

「どうかみなさん、彼杵の森をやさしい森のお母さんに、戻してください。」

「どうかみなさん、「やさしい彼杵の森大作戦」を皆さんで頑張ってください。」

「そう、メラメラと赤い炎は伝えてくれます。森の木が燃えながら子供たちに伝えてくれるよ。」

「早く冬にならないかな。ぼくも、好きな本を「千綿の小さな図書館」に持っていくよ。」「楽しみだね。」

原文 彼杵おもしろ河川団 ・ 東彼杵町まちづくり課

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